京都地方裁判所 昭和58年(ワ)1222号 判決 1984年2月28日
原告
輪形ヤス
ほか五名
被告
木村哲
主文
一 被告は原告輪形ヤスに対し金一〇〇万円、同輪形アヤに対し金七九一万八九一六円、同輪形行男に対し金二八五万四七二九円、同田中京子、同岡村美智子、同輪形敏継に対し各金一九五万四七二九円及びそれぞれこれらに対する昭和五七年七月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告輪形ヤスに対し金三六八万円、同輪形アヤに対し金二九〇〇万円、同輪形行男に対し金五〇〇万円、同田中京子に対し金五〇〇万円、同岡村美智子に対し金五〇〇万円、同輪形敏継に対し金五〇〇万円及びそれぞれこれらに対する昭和五七年七月一日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (交通事故の発生)
亡輪形又一は、昭和五七年六月二九日午前一〇時一五分頃京都市伏見区久我東町二番地の五八先付近市道において、リヤカーを連結した自転車に乗り停止していたところ、対向して進行してきた被告運転の同人所有にかかる普通乗用自動車(京五七ふ三三〇五号)が右又一の方向に突進して同人に衝突し、その結果同日同人をして多発生肋骨々折による呼吸不全シヨツク、脳底骨折、気脳症等により死亡せしめた。
2 (責任原因)
被告は、適確なギア、ブレーキ操作を誤つた過失により本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条による責任がある。
3 (原告らの地位及び権利の承継)
亡又一の原告輪形アヤは妻、同輪形行男は長男、同田中京子は長女、同岡村美智子は二女、同輪形敏継は二男としてそれぞれ亡又一の権利を承継した。また同輪形ヤスは亡又一の養母であつた。
4 (損害)
原告らは被告に対して次のとおり損害賠償債権計金五八六八万円を有する。
(一) 葬儀費 金九〇万円
(二) 逸失利益 金七七八万円
亡又一は本件事故当時農業を営む七五歳の男子であつたところ、一か月平均賃金二八万円を得ていたから、右賃金に三五パーセントの生活費を控除し、就労可能年数四年として新ホフマン方式(係数三・五六四)により算出した。
(三) 慰藉料 亡又一本人の分 金一五〇〇万円
遺族固有の分 金三五〇〇万円
5 よつて原告らは被告に対し請求の趣旨記載のとおりの支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の各事実は認める。
同4(一)の事実は不知。
同4(二)の事実は否認する。
同4(三)の主張は争う。
三 抗弁
被告は原告らに対し香典として金一〇万円を支払つた。
四 抗弁に対する認否
認める。
第三証拠
証拠関係は本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからここに引用する。
理由
一 請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。
二 そこで損害について判断する。
1 葬儀費
原告輪形敏継本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証、原告輪形敏継及び同輪形行男各本人尋問の結果によると、亡又一の葬儀費用として金二六〇万九八七〇円程度を要し、原告輪形行男がこれを負担したことが認められるところ、そのうち本件事故と相当因果関係のある葬儀費は金九〇万円と認めるのが相当である。
2 逸失利益
いずれも成立に争いのない甲第一、第三一ないし第三七号証、原告輪形敏継本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、第一四号証の一、二、原告輪形敏継及び同輪形行男各本人尋問の結果によると、亡又一は、明治四〇年四月二四日生れの本件事故当時満七五歳の健康な男性であつたこと、同人は当時農業を営む(但し収入は明らかでない)一方、二男輪形敏継の営む株式会社ユーゴランチサービスにも取締役として勤務し、一か月平均金三〇万円の報酬(但しうち三割が株主としての利益配当分で、七割が労働の対価である収入分)を得ていたことが認められる。
右事実によると亡又一は本件事故にあわなければなお四年間稼働でき、その間少なくとも労働の対価として一か月金二一万円(三〇万×一〇分の七)程度の収入を得続けることができたものと推認されるところ、同人の生活費としては右収入の三割五分程度と認めるのが相当であるからこれを控除すると、同人が得たであろう年間収益は金一六三万八〇〇〇円となるので、右金額を基礎にして新ホフマン式計算法に従い年五分の割合による中間利息を控除して、同人の死亡時における現価を求めると金五八三万七八三二円となる。
(算式) 252万0000×(1-0.35)×3.564=583万7832
3 亡又一の慰藉料
亡又一が本件事故により多大の精神的苦痛を受けたことは容易に推認できるところであるが、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮し、亡又一の受くべき慰藉料額は金五〇〇万円を相当と認める。
4 相続
原告輪形アヤが亡又一の妻、同輪形行男、同田中京子、同岡村美智子、同輪形敏継がいずれも亡又一の子であることは前判示のとおりであるので、亡又一の逸失利益及び慰藉料の各損害賠償請求権につき原告輪形アヤは二分の一にあたる金五四一万八九一六円を、同輪形行男、同田中京子、同岡村美智子、同輪形敏継は各八分の一にあたる金一三五万四七二九円ずつをそれぞれ承継取得したことが認められる。
5 原告ら固有の慰藉料
原告輪形ヤスを除く原告らが亡又一の妻子であり、原告輪形ヤスが亡又一の養母であることは前判示のとおりであり、原告らが亡又一の死亡によりそれぞれ多大の精神的打撃を受けたであろうことは容易に推認できるところであるが、本件事故の態様その他諸般の事情を考慮し、原告らの受くべき慰藉料額は原告輪形アヤが金二五〇万円、原告輪形行男、同田中京子、同岡村美智子、同輪形敏継が各六〇万円、同輪形ヤスが金一〇〇万円と認めるのが相当である。
6 損害の填補
被告は香典として金一〇万円を支払つた旨主張し、原告らもこれを肯認するところであるが、香典は遺族に対する贈与であるからこれを損害から控除するのは相当でない。
三 よつて原告らの本訴請求は被告に対し原告輪形ヤスは金一〇〇万円、同輪形アヤは金七九一万八九一六円、同輪形行男は金二八五万四七二九円、同田中京子、同岡村美智子、同輪形敏継は各金一九五万四七二九円及びそれぞれ本件事故日の翌々日である昭和五七年七月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小山邦和)